1990年代まで、日本と大変似通った外国人政策をとっていた韓国ですが、1997年のアジア通貨危機後、グローバル化に向けて新しい国づくりに踏み出しました。2004年8月には、3年の期限で外国人労働者を受け入れる雇用許可制度を始め、日本に似通った研修制度を2007年1月に廃止しました。
そして、2006年5月に外国人政策委員会が開いた第1回外国人政策会議をきっかけに、韓国の外国人政策は大きな転換を遂げました。外国人政策委員会とは、国務総理を委員長として、法務部(部は省に該当、以下同様)、労働部、女性家族部、教育人的資源部、行政自治部等の各長官(大臣)が参加し、外国人政策に関する審議を行い、関係省庁間の調整を行う組織です。
外国人政策会議が開催されたのは、2005年12月に盧武鉉大統領が人権保護の側面から外国人問題関連の改善対策及び推進体系を定めるよう法務部に指示したからでした。同月、法務部の出入国管理局長によってタスクフォースが立ち上げられ、市民団体、学界、関係省庁などとの会合を重ね、「外国人政策の基本方向及び推進体系(案)」が用意され、上述の会議で承認されました。
この会議には大きく3つの意義があることを韓国政府は強調しています。第1に、国際結婚の増加や少子高齢化など社会環境の変化に応じた外国人政策の基本方針を確立したことです。第2に、省庁の縦割りの中で行われてきた外国人関連政策を総合的に推進する準備ができたこと、具体的には、外国人政策に関する審議・調整を行うために外国人政策委員会が設置され、外国人関連業務を総括する法務部が外国人政策の中心組織に指定されたことです。第3に、外国人の人権尊重と社会統合及び優秀な外国人の誘致と支援を外国人政策の主要目標として設定し、多文化社会に対する理解増進と国家発展の転機とする準備ができたことです。
同会議以後、法務部を中心に各省庁は外国人政策に力を入れました。その中でも動きが早かったのが地方自治を所管する行政自治部です。2006年8月に「居住外国人支援業務指針」を、同年10月には「居住外国人支援標準条例案」を、そして2007年2月には「居住外国人地域社会定着支援業務便覧」を策定しました。同条例案に基づき、全国の232の自治体の多くが居住外国人支援条例を制定しました。
各省庁の取り組みが進む中、2007年4月には「在韓外国人処遇基本法」が国会を通過し、5月に公布、7月に施行されました。この法律は、「在韓外国人が大韓民国社会に適応して個人の能力を充分に発揮できるようにし、大韓民国国民と在韓外国人が相互に理解し尊重する社会環境をつくり、大韓民国の発展と社会統合に貢献すること」を目的としています。また、5月10日には、法務部の出入国管理局が出入国・外国人政策本部に改編され、本部長(次官と局長の間)のもとに、出入国管理政策官、統合支援政策官(いずれも局長級)および政策企画官が置かれ、統合支援政策官のもとに社会統合課が設置されました。現在は、国籍・統合政策官のもとに移民統合課が置かれています。
また、2008年3月には「多文化家族の構成員が、安定的な家族生活を営むことができるようにすることで、これらの者の生活の質の向上及び社会統合に貢献すること」を目的に、多文化家族支援法が制定され、同年9月に施行されました。「多文化家族」とは韓国人と外国人が結婚した家族を指します。
韓国では、2009年より社会統合プログラム(KIIP:Korea Immigration and Integration Program)が実施されています。社会統合プログラムは、韓国に居住する外国人が、韓国で生活していくうえで必要となる語学や一般教養を習得することを目的としており、韓国語・韓国文化(レベル0~4、基礎、初級1、初級2、中級1、中級2、計415時間)と韓国社会理解(レベル5、基本と深化、計70時間)から構成されています。参加対象者は、韓国に合法的に在留する外国人と韓国の国籍を取得した日から3年以内の国民である。履修者に対しては、帰化のための手続きの簡略化などの優遇措置がとられています。
法務部では、社会統合プログラムの運営のために、社会統合情報網(Soci-Net)を導入し、インターネットを通じた申請受付や各種情報提供等を行っています。
法務部:社会統合政策(社会統合プログラム、早期適応プログラム、国際結婚案内プログラム)
*2000年の政策提言は、日本における移民受け入れに関する包括的なビジョンを初めて示したものです。
- 山脇啓造・近藤敦・柏崎千佳子「移民国家日本の条件」(明治大学社会科学研究所ディスカッションペーパー、2000年11月)
- 山脇啓造・近藤敦・柏崎千佳子「多民族国家・日本の構想」『世界』第690号(2001年7月)
- 山脇啓造・柏崎千佳子・近藤敦「社会統合政策の構築に向けて」(明治大学社会科学研究所ディスカッションペーパー、2002年1月)
- 山脇啓造「多文化共生社会の形成に向けて」(明治大学社会科学研究所ディスカッションペーパー、2002年10月)
- 山脇啓造「外国人政策-多文化共生へ基本法制定を」『朝日新聞』2002年11月6日
- 山脇啓造・柏崎千佳子・近藤敦「多民族国家日本の構想」『東アジアで生きよう!-経済構想・共生社会・歴史認識』(岩波書店、2003年)
- 外国人との共生に関する基本法制研究会(山脇啓造代表)報告書『多文化共生社会基本法の提言』(2003年3月)
- 山脇啓造「多文化共生社会をめざして(上・下)」『国際人流』2003年5・6月号
- 山脇啓造「多文化共生を推進する『基本法』と『条例』に関する10の質問」『NPOジャーナル』第3号(2003年10月号)
- 山脇啓造「多文化共生の地域づくりに向けて」『経済トレンド』2004年8月号
- 山脇啓造「外国人も住民登録を」『毎日新聞』2006年10月1日
- 山脇啓造「社会統合政策の構築に向けて」『経済トレンド』2008年12月号
- 山脇啓造「多文化共生社会の形成に向けて」『移民政策研究』創刊号(2009年5月)
- 山脇啓造「多文化共生社会基本法をーグローバル時代の外国人受け入れに向けて」『毎日新聞』2010年11月4日
- 山脇啓造「多文化共生社会の構築に向けて」『経団連タイムズ』2015年11月26日
- 山脇啓造「多文化共生の基本法を」『東京新聞』2015年12月20日
- 山脇啓造「日本の移民政策を成功させる真っ当な方法」『東洋経済オンライン』2018年10月2日
- 山脇啓造「プロの読み 社会の一員として支援 基本法や医療整備を」『日本経済新聞』2019年1月1日
- 山脇啓造「増える在留外国人 『安価な労働力』で受け入れ拡大 264万人と『共生』社会作りを」『エコノミスト』2019年1月15日
- 山脇啓造「外国人材受け入れ拡大を考える② 多文化共生社会に向けて」NHK総合テレビ『視点・論点』2019年2月26日
- 山脇啓造「経済教室 外国人材活用の条件㊦ー多文化共生政策の推進を」『日本経済新聞』2019年3月14日
- 山脇啓造「多文化共生社会の形成に向けた取り組みを聴く」『経団連タイムズ』2021年2月11日
法務部(Ministry of Justice)出入国・外国人政策本部(Korean Immigration Service)
女性家族部(Ministry of Gender Equality and Family)多文化家族課(Multicultural Family)
準備中
IOM Migration Research and Training Centre (IOM移民政策研究院)
宣元錫「韓国における非専門職外国人労働者受け入れ政策の大転換」(一橋大学大学院社会学研究科、2006年2月)
白井京「韓国の外国人労働者政策と関連法制」『外国の立法』2007年2月号
宣元錫「韓国の移住外国人と外国人政策の新展開」(一橋大学大学院社会学研究科、2007年4月)
山脇啓造「韓国」『イタリア、韓国における外国人政策に関する調査報告書』(外務省領事局外国人課、2007年11月)
白井京「韓国における外国人問題ー労働者の受入れと社会統合」『人口減少社会の外国人問題』(2008年1月)
山脇啓造「動き出した韓国の外国人政策」『国際人流』2008年3月号
白井京「韓国の多文化家族支援法」『外国の立法』2008年12月号
白井京「韓国における外国人政策の現状と今後の展望」『外国の立法』2010年3月号
春木育美「韓国の外国人労働者政策の展開とその背景」『東洋英和女学院大学人文・社会科学論集』(2011年3月)
『韓国における多文化政策』(クレアレポート367号、自治体国際化協会、2011年10月)
韓国における論争(2000年代前半)