日本における移民政策の議論は、2018年12月の入管法改定前後に活発になりましたが、それは初めてのことではありません。小渕恵三首相(当時)が立ち上げた「21世紀日本の構想」懇談会の報告書が移民政策を打ち出したのは2000年のことです。その時期に、筆者は小さな研究会を開き、日本の移民政策についての研究を進めました。その時の成果が「移民国家日本の条件」でした。また、2003年3月にはもう一つの研究会の成果として『多文化共生社会基本法の提言』を発表しました。
2001年に設立された外国人集住都市会議は、ほぼ毎年、国に対して、外国人政策の見直しを求める提言を国に提出しました。2004年には、日本経済団体連合会も「外国人受け入れ問題に関する提言」を発表し、「外国人受け入れに関する基本法」の制定と「外国人庁/多文化共生庁」の設置を求めました。
こうした自治体や経済界の動向を踏まえて、総務省は2005年度に多文化共生研究会を起ち上げ、筆者は座長に就きました。その報告書をもとに総務省は「地域における多文化共生推進プラン」を2006年3月に公表し、政府は「『生活者としての外国人』に関する総合的対応策」も同年12月にとりまとめました。こうして、多文化共生への関心が一気に高まりましたが、多文化共生社会基本法の議論には発展しませんでした。2008年には自由民主党の「外国人材交流推進議員連盟」が「人材開国! 日本型移民政策の提言」を取りまとめましたが、2009年にリーマンショックが起こり、日本経済が大きく後退し、外国人住民の数も減少すると、移民政策をめぐる議論も静まりました。
その後、外国人材の活用は推進しつつも、「移民政策」はとらないことを強調する安倍晋三政権(2012年12月~2020年9月)が続きましたが、2018年12月の入管法改定をめぐる議論をきっかけに、日本は移民国家であるかどうか、多文化共生社会を形成するにはどうしたらよいか、大きな議論が起きました。政府は、入管法改定と同時に、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」を取りまとめました。
日本弁護士連合会は、2018年10月に「多文化共生法」を制定するとともに、「多文化共生庁」を設置することを国に提言しました。2019年6月には、立憲民主党が「多文化共生社会基本法案」を衆議院に提出し、内閣委員会を経て、衆議院本会議で継続審査とすることが2019年12月に議決されました。一方、指定都市市長会は、2019年8月に「共生の概念をはじめ、国・地方自治体・事業者等の役割分担、政策までを包括した、施策実施の根拠となる基本的法律」の整備を内閣府及び法務省に提言しました。さらに、外国人集住都市会議も、2021年4月に「多文化共生推進基本法」の制定と「外国人庁」の設置を求める提言を出入国在留管理庁に提出しました。
- 山脇啓造・近藤敦・柏崎千佳子「移民国家日本の条件」(明治大学社会科学研究所ディスカッションペーパー、2000年11月)
- 山脇啓造・近藤敦・柏崎千佳子「多民族国家・日本の構想」『世界』第690号(2001年7月)
- 山脇啓造・柏崎千佳子・近藤敦「社会統合政策の構築に向けて」(明治大学社会科学研究所ディスカッションペーパー、2002年1月)
- 山脇啓造「多文化共生社会の形成に向けて」(明治大学社会科学研究所ディスカッションペーパー、2002年10月)
- 山脇啓造「外国人政策-多文化共生へ基本法制定を」『朝日新聞』2002年11月6日
- Yamawaki Keizo, “New legislation needed for a multicultural Japan,” published in The Asahi Shimbun on 17 December 2002.
- 山脇啓造・柏崎千佳子・近藤敦「多民族国家日本の構想」『東アジアで生きよう!-経済構想・共生社会・歴史認識』(岩波書店、2003年)
- 外国人との共生に関する基本法制研究会(山脇啓造代表)報告書『多文化共生社会基本法の提言』(2003年3月)
- 山脇啓造「多文化共生社会をめざして(上・下)」『国際人流』2003年5・6月号
- 山脇啓造「多文化共生を推進する『基本法』と『条例』に関する10の質問」『NPOジャーナル』第3号(2003年10月号)
- 山脇啓造「基本法制定し、多様性認める社会を」『日本語教育新聞』2004年5月号
- 山脇啓造「多文化共生の地域づくりに向けて」『経済トレンド』2004年8月号
- 山脇啓造「社会統合政策の構築に向けて」『経済トレンド』2008年12月号
- 山脇啓造「多文化共生社会の形成に向けて」『移民政策研究』創刊号(2009年5月)
- 山脇啓造「多文化共生社会基本法をーグローバル時代の外国人受け入れに向けて」『毎日新聞』2010年11月4日
- 山脇啓造「多文化共生社会の構築に向けて」『経団連タイムズ』2015年11月26日
- 山脇啓造「多文化共生の基本法を」『東京新聞』2015年12月20日
- 山脇啓造「日本の移民政策を成功させる真っ当な方法」『東洋経済オンライン』2018年10月2日
- 山脇啓造「プロの読み 社会の一員として支援 基本法や医療整備を」『日本経済新聞』2019年1月1日
- 「多文化共生の新時代へ」『自治体国際化フォーラム』2019年1月号
- 山脇啓造「増える在留外国人 『安価な労働力』で受け入れ拡大 264万人と『共生』社会作りを」『エコノミスト』2019年1月15日
- 山脇啓造「外国人材受け入れ拡大を考える② 多文化共生社会に向けて」NHK総合テレビ『視点・論点』2019年2月26日
- 山脇啓造「経済教室 外国人材活用の条件㊦ー多文化共生政策の推進を」『日本経済新聞』2019年3月14日
- Yamawaki Keizo, “Is Japan becoming a country of immigration?” published in The Japan Times on 2 June 2019.
- Yamawaki Keizo and Bob White, “It is time for Japan to start talking about its immigration policy,” published in The Japan Times on 8 October 2020.
- 山脇啓造「多文化共生社会の形成に向けた取り組みを聴く」『経団連タイムズ』2021年2月1日
- 山脇啓造「外国人も住民登録を」『毎日新聞』2006年10月1日
- 山脇啓造「教育改革 外国人受け入れ態勢整備を」『朝日新聞』2006年11月16日
- Yamawaki Keizo, “Too many foreign kids falling through the cracks,” published in The Asahi Shimbun on 20-21 January 2007.
- 山脇啓造「多文化共生社会 外国人政策、自治体に学べ」『朝日新聞』2012年2月1日
- 山脇啓造「先例参考に日本でも共生策を」『朝日新聞』2016年1月23日
- Yamawaki Keizo, “Japan needs guidelines and infrastructure for multilingual support to foreign residents,” published in The Japan Times on 13 August 2019.
- Yamawaki Keizo, “Communicating with foreign residents in ‘plain Japanese,'” published in The Japan Times on 25 October 2019.
- Yamawaki Keizo, “Japan’s move towards a diverse and inclusive nation?” published in The Japan Times on 12 January 2020.
- Yamawaki Keizo, “Japan must provide multilingual information on COVID-19,” published in The Japan Times on 10 March 2020.
- Yamawaki Keizo and Bob White, “Pandemics, fear and discrimination: Are Japanese cities ready for live with COVID-19?” published in The Japan Times on 3 July 2020.